ある男がいた。
その男は周りから親切な良い人と評判だった。
男は評判通り困っている人を助けるのはもちろん、他人のためになることはできる限り行う人だった。
しかし、男には気の許せる友人が全くいなかった。
というのも、男は不幸なことが起こる度に人へ不平を言っていたからだ。
男は親切を金と同じようなものとして考えており、返さないものを厳しく責め立て、憎むようになっていった。
それでも、男は表面上は他人のため、内面は自分の富のために親切を貸し続けた。
親切を返す者はそれなりにいるものの、返すことなく疎遠になる者も少なくなかった。
男は手持ちの金が減っていくのと同じような焦りを感じ、前よりも一層人に厳しくなった。
いつしか、男の周りに親切を貸せる者はいなくなってしまった。
貸せたとしても帰ってくる見込みはほとんどなく、男は親切にすることをやめてしまった。
男は原因を考えた。
なぜ、親切にしていたのにも関わらず、周りから人がいなくなってしまったのか。
そして気が付いた。
男が金と同じだと考えていたものはいつからか親切から、その人自体へと変わっていったことに。
そして、親切と人が決して切り離すことができないことに。