実験室にて、私は上司と向き合っていた。
「あなたがここで働くには、1度死んでもらわなければならない」
そういわれ、私は何の疑問も持たぬまま巨大な歯車の前に立った。
痛みはあるのかと問うと、上司は首を横に振る。
「一瞬で終わるから、痛みを感じる暇すらない」
私はこの話を聞いて安堵した。
まずは20の歯車。私の背は吹き飛び、意識が遠のく。
次に50の歯車。私の胴がなくなり、痛みもなく眠るように暗転した。
そして、目覚めたとき、私は自分が死んだことを自覚した。
私は確かに死んでいる。しかし、そこに存在している。
私は幽霊となった。
上司は嬉しそうに笑い、
「これであなたも私たちの仲間になった」と言った。
私は会社のカードキーを受け取り、実験室を出た。
これでようやく私は働けるのだ、という思いで気分は高揚していた。
しかし、その気分も長くはもたなかった。
先輩とすれ違った際、私は本能的に彼が生者であると感じたからだ。
そして膝から崩れ落ちた。
死んだのは私だけだったのだ。
皆が死んでいると思い込んでいた私は激しく後悔した。
道を引き返し、実験室へ向かう。
早く何とかしてもらわねば。
しかし、実験室なんて部屋は存在しなかった。