『玉水物語』もいいが『さよひめ』もいいぞ

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はじめに

 

2019年のセンター試験、古典にて『玉水物語』が出題されました。

そして、同日。twitterにて「あれ? 古典の問題のこれって百合じゃね?」というつぶやきが一気に拡散され、この物語は百合なのか、そうでないのかの熱い議論が行われている様を見ていました。

 

文学部男子である僕は拳を握りしめ、こう呟いていました。

 

「……悔しい……!」

 

 

「は?」って思うでしょう。

そうですね。意味わかんないですよね。

簡単に言ってしまえば「友達が研究中の作品が話題になってて羨ましい」のです。

一方の僕の研究作品は『さよひめ』という御伽草子なのですが、これまでの誰一人として知っている人はいませんでした。

 

なんで僕の研究作品はあまり知られていないんだ……!センター試験で出題されて、いろんな議論とかされてみたい……!

と、作者さながらの嫉妬を抱いていた僕はこの記事を書くに至ったのです。

 

……というわけで、今回は僕が注目していた『さよひめ』という古典作品について

の紹介をします。

長くなりそうなので、以下の目次を参考にしてください。

 

 

 

 

 

『さよひめ』とはこんな感じ

まず、『さよひめ』の内容を分かりやすいように章立てをして説明します。面白くしたいので誇張や多少の改変、茶々を入れる部分がありますが、本文はこんなにふざけてません。まぁ、「すでに別の物語なんじゃないか」という意見には耳を塞ぎたいと思います。大まかには合ってるし、興味を持ってくれさえすればいいのです。

あと、僕はこの作品が心底好きです。

では、内容。

 

プロローグ

遥か昔。一人の少女がいました。彼女に名前はありません。

身寄りのなかった少女は人々の間でたらいまわしにされながら、非常に肩身の狭い思いをしながら日々を過ごしていました。

そして、ある村で引き取られたときにそれは起きました。

村の近くにある川に掛けてある橋が流されてしまったのです。何度橋を架けてもその度に流されてしまい、村人たちは途方に暮れていました。

一人の村人が言います。「もう、これは人柱を立てるしかねぇな」

他に手がなかったので村の皆は仕方なく賛同し、人柱を誰にするのか話し合いました。

そして数日後、何も知らない少女の家に村人が押し寄せます。

身寄りのないこいつが適任だ、と

 

第一章 自己犠牲の申し子、さよひめ

絶世の美少女であるさよひめは、とあるお金持ちの家に生まれます。しかし、お金持ちの父が亡くなると共に、家は没落の一途をたどりました。

そして父が亡くなって十三年後、さよひめは大好きな父の十三回忌の供養をしたいと思います。しかし、全くお金がありません。

そこでさよひめは自分の身を売って、そのお金で供養しようと決意しました。しかし、こんなこと母には言えません。さよひめは黙って家を出て、街へと繰り出していきました。この時代の姫からしてみればこんなの切腹と同じような覚悟が必要でしょう。

そこで出会ったのがとあるおじさん。なんだか田舎者といった風貌で、さよひめを舐めまわすように見た後、彼女を買いたいと言ってきます。元々身を売るつもりでいたさよひめは「先にお金をもらって父を供養した後、おじさんについていく」という契約を結び、お金をもらってその場を後にしました。

 

そして、数日後、供養を終えたさよひめの家におじさんがやって来て……

 

……と、ここまで完全にエロ漫画の導入ですよね。

僕の文章からは、おじさんの下卑た笑いが聞こえてきます。しかし安心してください。

ここから急展開です。

 

 第二章 さよひめ、生け贄になる

おじさんに連れられて、到着したのは大きな湖。

たった一人の肉親である母と別れて悲しむさよひめにおじさんは言います。

「今から大蛇の生贄になってもらう」と。

唖然とするさよひめ。

着々と進められていく儀式の準備。嬉しそうなおじさん。

一方その頃、故郷で母は悲しみのあまり盲目になりました。

……とえげつない情報量で展開は進みます。

 

そして、とうとうさよひめが生け贄となる瞬間が訪れました。

湖から現れた大蛇はさよひめを丸呑みしようと口を開けますが、さよひめがそれを止めます。

「死ぬ前にお経を読みたいから、ちょっと待って」

この状況でなんという胆力。それとも彼女は錯乱しているのでしょうか。

そして、それを聞いた蛇は一旦丸呑みするのをやめます。

なんでや。

 

さよひめは法華経を読んだ後、大蛇の頭を撫でました。

さよひめは自分と母、死んだ父、そして大蛇のことを想ってお経を読んでいたのです。

撫でられた大蛇も目を閉じます。

 

すると、大蛇の角は折れ、鱗が桜吹雪のように舞い散りました。

千枚以上の鱗が舞う様は、それはそれは美しいことでしょう。

 

そしてそれがおさまったとき、そこに立っていたのは一人の少女でした。

これにはさよひめも驚きます。

少女はいつぶりかも忘れてしまった笑みを浮かべ、さよひめに自分の身の上を話します。

 

少女は1000年前、人柱として生きたまま川に沈められたのでした。

そして、こんな理不尽な世の中と村の人々への怨みから大蛇となり、1年に1度、湖へ娘を生贄とすることを要求したのです。

 

これまで人の優しさに触れてこなかった少女はさよひめに感謝し、大蛇がいなくなったことで村の人も、さよひめも助かったのでした。

 

 

エピローグ

 

その後、おじさんに挨拶を済ませたさよひめは大蛇の背に乗って家に帰ります。

そして、なんやかんやあって母の盲目が治りました。

 

さよひめと少女は神様になりましたとさ。

 

大蛇を救ったのが、父の供養を最優先したさよひめと、お経の力なのです.......。親孝行とは素晴らしい。

みんなも親孝行しような!

 

 

.......と、こういう話です。

長いですね。

 

「まとめる力がないな」と昔友人に言われましたが、今回は違います。あえてです。本当です。

この『さよひめ』、古文でもめちゃくちゃ長いんです。ワードで文字に起こしたときは20000文字ありましたから。はなからコンパクトにさせる気がないんだと思います。

梗概だけ述べても良かったんですが、イマイチ魅力が伝わらないんですよね。

 

 

 

おじさんの裏事情

 

ここで登場したおじさん。嫌なキャラですよね。

でも、おじさんにも割と事情があったのです。

 

おじさんは生贄の風習のある村で生まれました。その村では交代制で、1年に1人美しい姫を生贄に出さなくてはならないという決まり事があったのです。

そしてその年はおじさんの番でした。

おじさんには幼い娘がいますが、とても生贄に出そうとは思えません。

しかし、生贄を出さなければ村全てが大蛇によって滅ぼされてしまいます。

 おじさんは苦渋の決断で、他所から娘を買って身代わりにすることを決めて旅立ちました。

そこで出会ったのがさよひめです。

あの時さよひめを買って喜んでいたのは、娘が助かることを安堵したからではないでしょうか。文字通り大枚はたいてさよひめを買います。

 

まぁ、おじさん自体はさよひめを生贄にしようとしていたので人としては割とアウトですが、奥浄瑠璃に見られる「目の前にいるさよひめと村で待つ娘の間で葛藤するおじさん」はかなり見どころだと思います。

「自分の手を汚してでも娘を守る」というその決意には心動かされるものがありました。

 

ただ、心を鬼にしすぎてさよひめをぶん殴ったりしますが……。

やりすぎだよおじさん……。

 

 

『さよひめ』の魅力

 

こういった、人々の事情が事細かに書かれている一種の群像劇のような感じで物語が展開していきます。だから物語が長いんです。

 

あと、諸本が多いので、いろいろなバージョンを見られるというのも一つ魅力です。

 

例えば『さよひめのさうし』では、「人に戻った少女がさよひめと末永く暮らしました……」といったラストで締めくくられるので百合要素もばっちり。

 

また、諸本によっては少女が人妻になったりするので、好みに合わせて読み分けましょう。

 

 そして、なんといっても古典作品といえば「二次創作がしやすい」これに限ります。

現代小説のように表現自体が細かい、というわけではなく、想像に任せる部分が割と多いので「実はこの主人公はこういう過去を抱えていて……」といった改変がしやすいんです。

幸運なことに、この『さよひめ』はあまり知名度が高くありません。

話題にしても、作品にしても面白くなるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

ぜひ、本文を読んでTwitterでバズらせてください。

僕はそれを見てます。

ちなみに、サムネイルは聖地巡礼した際の竹生島の写真です。