砂糖人形達は生まれた時から狭いガラスケースに入れられていた。
人間には分からないが、彼らには意識があり、彼らの間では意思の疎通がとれていた。
彼らは姿形が全く同じである。
彼ら同士も、自分以外の見分けは正直怪しいものだった。
それはしましまのとんがり帽子を被った小人の姿をしており、誕生日ケーキの上に降り立つ日を今か今かと待ちわびていた。
ガラスケースが開き、仲間の一人が心なしか誇らしげな顔で取り出されている姿を見て、……仮にAとする砂糖人形は彼を羨ましく思った。
Aは隣に置いてある砂糖人形――Bに話しかける。
「なぁ、僕もああやって選ばれたいんだ。そこで考えた。僕たちには個性がないだろ。それを利用して、僕に個性ができれば間違いなく次に選ばれると思うんだ」
Bは興味がなさそうに
「じゃあ、いったいどうやって個性を作るんだい」
と返した。
Aはそこまで考えていなかったのか、そこで押し黙る。
Bは続けた。
「まぁ、人間に分かるように違いを出そうと思っているのならやめておくといい。確かに目立つだろうが――」
と、そこまで言ったところでBの身体は持ち上がった。
Bが人間に選ばれたのだった。
AはあっけにとられてBを見送った。
そしてBの言葉の続きが気になり続けていた。
この二人の会話を。別の砂糖人形、Cは聞いていた。
後日、AはCの姿を見て驚いた。Cのとんがり帽子のしましまがなくなっており、代わりに不均等な波紋が浮き出していた。
そして、全体的にCの身体がてらてらと光っており、Aや他の砂糖人形に比べて一回り大きいように感じる。
AがCに尋ねてみると、Cは
「実は、このガラスケースの中に太陽の光が当たる場所があるんだ。そこで少し自分を溶かしてみたってわけさ。良いだろう? キラキラしてて。これで次に選ばれるのは間違いなく僕だ」
と得意げに言った。
Aはしてやられた、と思ったが既に自分を溶かしていてはCに先を越されてしまう。
実際、Cは客の注目を集めていた。
不規則に光を反射しているため、砂糖人形の中で文字通り異彩を放っていた。
ガラスケースが開き、予想通りCが持ち上げられた。
ペリペリと、溶けた砂糖が名残惜しそうな音を立てる。
Cは「君もがんばれ」と見下して言っていた。
しかし、Cは誕生日ケーキに立つことはなく、そのままゴミ箱に放り投げられた。