仮の記憶

私が幼い頃、Kこども園はK保育園という名前だった。

 

その保育園は午前に子供を遊ばせ、午後は昼寝をさせるという、特に変わった所のない普通のものだった。ただ、私が生まれる十数年前に大規模な交通事故によって児童が複数亡くなっており、慰霊碑があった。

 

その慰霊碑を見て、いつもひどく泣く子供がいた。

彼はS君という、幼い私から見ても小柄で、その慰霊碑に限らずすぐに泣く子だった。

今思い返してみても、S君の無く理由がよくわからない場面が相当あったように感じる。

登園して親と離れるとき、転んだ時、何か気に入らないことがあったときに泣くより、何の前触れもなく突発的に泣きわめく場面の方が多かった。

私は、ただうるさく泣くS君が好きではなかった。

 

ある時、私は暇を持て余してホールに忍び込んだ。

このホールは午後に子供を昼寝させる場所なのでかなり広く、小学校の体育館より一回り小さいくらいのものだった。

本館を中心に皆が遊んでいるグラウンドと真逆の位置にあるそこは、日中でも日の光があまり入らないため薄暗く、午前中はほとんど人が寄ることはないため静かだった。

 

広いだけで何もないホールに一人で行ってもすることは何もない。

私はすぐに飽きたが、小さく聞こえる笑い声に気づき、そちらを見た。

どうやらお遊戯会で使われる舞台の裏から聞こえるようだった。

 

私に恐怖心はなかった。

何も考えず舞台へ上がり、裏の方へ向かっていく。

そこにはS君がいた。

S君は私に背を向けており、私には気づいていない様子だった。

なぜS君が午前のホールにいたのか、今でもよくわからないが、彼は明らかに誰かと楽しそうに話をしていた。

 

S君に話しかけようとした途端、私は何か身の毛もよだつような恐怖に襲われた。

 

私はその場から逃げた。

音を立てないように、などと考えが回らなかったのでドタドタと音を立てながら全力で皆のいるグラウンドの方へ走っていった。

 

このことは誰にも話していない。

 

S君はそのうち遠くへ引っ越すこととなり、今どうしているのかは分からない。

ただ、お別れ会の時、私を見て突発的に大泣きしたことが、今でも心残りでいる。