社会人となって二週間が経ちました。
新入社員として僕にできることはまだほとんどありません。
現状は完全なお荷物状態です。
だからこそ早く仕事を覚え、役割を与えられるような努力をするべきなのです。
その一環として……というか当たり前ですが、仕事を教えてもらったときにはメモを取るようにしています。
この二週間でメモ帳の半分くらいが埋まり、「週末にもう一冊買っておくか」と思ったのもつかの間、次に見たときには洗濯したズボンのポケットから出てきました。
最悪です。
何とか原型をとどめているもののページは全てくっついており、無理にはがすと破れてしまう、しかしこのまま乾かしたら取り返しがつかなくなる……という「敵の攻撃を食らって虫の息のヒロイン」を見ている気分でした。
まぁ、正直これを失ったところで仕事の内容は覚えているので別のメモに書きなおせばいいのですが、それでも僕の場合は特殊能力「記憶の改ざん」によって間違えて覚えてしまっている可能性も捨てきれません。
メモ帳は普段見なくても、いざという時になくてはならないものなのです。
僕はすぐに「メモ帳 洗濯 復元」で検索をかけました。
ただ、検索結果に出てくるのは洗濯物についた紙屑の取り方ばかり。
こんなことをしている間にもメモはどんどん乾いていきます。
焦った僕は一つの記事を見かけました。
それは「濡れた本を綺麗に戻す方法」です。
詳細は省きますが、要は「冷凍庫に24時間以上入れる」というものでした。
原理は全然わからないものの、それを見た僕はメモ帳をすぐにキッチンペーパーに包んで冷凍庫にぶち込みました。
そして今日。ドキドキしながら冷凍庫を開けます。
と、ここで一旦ストップ。
僕はここで大きな間違いをしていました。
この「冷凍する」という方法は冷凍庫にいれる前に「ある程度ドライヤーで乾かしておく」という作業が必要なのです。
僕はそれを見落としていたのです。
まぁ、そりゃそうだ。
水分を多く含んだ紙を冷凍庫に入れたらどうなるかなんて小学生でもわかります。
案の定、八寒地獄の中でメモ帳はガチガチに凍っていました。
もうページがどうとか言ってられません。
完全に一つの氷の塊です。
メモ帳もコンビニに陳列されていた頃はこんな姿になるなんて思っていなかったでしょう。
まるで「孤児院から引き取られた子供が虐待を受けている描写」を眺めているうな胸の痛みを感じます。
メモ帳もコンビニ時代には希望を持っていたと思います。
「どんなことを書いてもらえるのかな。もしかしたらすごく大事なことを書いてもらって、将来ずっと大事にしてもらえるかも……。」と、素敵な未来を思い描いていたかもしれません。
しかし、現実は大きくかけ離れ、「水攻め後に冷凍」という拷問まがいの仕打ちを受けて「……シテ……コロシテ……」と死を望むようになっています。
その虐待を与えているのは他でもない僕なのですから、もう涙が止まりません。
その後、僕は「ごめんよ……ごめんよ……」と言いながらドライヤーで乾かしました。
その姿は完全にDV夫そのものです。
ということもあって、何とか内容を読める程度まで回復させることに成功しました。
あとは別のメモ帳に書き直すだけです。
この僕の姿を見てもう一冊のメモ帳が戦慄しているかはわかりませんが、次からは洗濯前にポケットの中身はしっかり確かめたいと思います。
以上。