絶対に捨てられない一枚の紙

 

ねぇホノちゃん。

 

なによ。
勝手に部屋に入ってこないでくれる?

 

あー……なんか新鮮な感じ。

ホノちゃん以外は割と勝手に部屋を行き来してるから。

 

まずはそこから直していかないといけないのね……。

 

それでなによ?

 

ホノちゃんが屋敷に来た記念で僕の宝物を見せてあげようと思ってね。

ほら、これだよ。

 

私がリビングにいるタイミングでもいいでしょうが……。

 

……って、紙?

 

 

 

なによこれ。
「帰りに図書館に来ること!」……?
あんた司書に怒られることでもしたの?

 

いや違うよ。

それを宝物にしてるってめちゃくちゃ深いエピソードがありそう。

 

これは高校3年生の卒業式の日に机に貼ってあった紙だよ。

 

……?
余計分からなくなったわ。

 

僕、高校時代は図書館でご飯を食べてたんだよね。

 

ちょっと。
次々と理解が難しいこと言うんじゃないわよ。
順番に説明しなさい。

 

えーっと……。

僕、高校時代に仲の良い友達がいろんなクラスにいたんだよ。

ただ、別に僕が顔が広いとかそんな話じゃなくて、クラスに馴染めなかったはぐれ者が集うグループがあってね。

高校2年の途中から僕が仲間に入ったって感じ。

 

この屋敷にあんたが来た理由が分かる気がするわ。

 

で、僕たちだってやっぱりみんなで集まってご飯を食べたいじゃない?

でも高校って思ったほど空き教室なんかないし、おあつらえ向きの場所なんか他のグループがいたりして行き場を失ってたんだよね。

 

で……なんだかんだ図書館に落ち着くんだよ。

 

そこが一番気になるところなんだけど。

 

それがねぇ……肝心なところを覚えてないんだよ。

今一番悔しいかも。

 

そもそも図書館なんかでご飯を食べたら他の利用者に迷惑がかかるじゃない。

 

まぁ、そうだね。

それは僕も思う。

 

ただ……利用者が全くいなかったことと、「利用者が来たら私語禁止」ってルールがあったよ。

それと、僕達はなぜか本棚と真逆の隅っこにあるソファとローテーブルのスペースにいたからそれで許してほしいかな。

 

なによそのスペース。

 

……いや、分かんない。

図書館の中にどこかの家のリビングが転送されてきたみたいなスペースがあったんだよ。

 

司書のおばちゃんも超怖い人だったんだけど、なんだかんだやり取りを続けて仲良くなってた。

そこでご飯を食べる代わりに蔵書点検とか、中庭の掃除とかをやった覚えがあるなぁ。

夏休みも掃除のために行った覚えがあるし。

もちろん僕達の意思でね。

 

そんな感じで、僕の青春は高校の図書館がメインの舞台だったんだ。

 

……で、卒業式の日

式が終わって教室に戻ったらこの紙が机の上に貼ってあったんだよね。

 

担任の先生の最後の話が終わって、友達に寄せ書きももらわずにすぐ図書室に行ったね。

 

で、最後仲間うちでいつも通り話したり、司書さんも含めてあのスペースで写真を撮ったりしたよ。

 

まぁ、思い出としてはいいものね。

 

結構色々あったなぁ……。

友達が中庭の一部を耕して大根を育てたこともあったし……。

 

あんたの学校結構自由ね!

 

いい思い出だなぁ……。

 

…………。

 

で、なんでそれを23時に言いに来るの。

 

だって言いたかったんだもん。

 

じゃあ、おやすみ~。

 

 

…………。

 

これがあいつらの日常なの……?
嘘でしょ……?

 

以上。