僕には覚悟がなかったんだと思いました。
どうも、角田です。
食は命を頂く行為なんだ。
覚悟がなかったなら、これから感じればいいんだ。
大ちゃんだ。
大和、そういうのは話を聞いた後に言うことよ。
仄よ。
最近、暑くなってきたし海沿いの店で海鮮丼を食べたんだよね。
ほら、あそこにあるじゃない。
……ああ、あの殺風景なところね。
そう。ここは秘境なので、殺風景でも海鮮丼が食べられます。
で、普通にまぐろやシマアジの刺身、ウニが乗ってるような、豪華な海鮮丼を食べたんだよ。
その中に、頭としっぽ付きの、身体の殻が剥かれて背ワタも取られてるエビが乗ってたんだよね。
いいじゃないか。
ちょうど面倒なところが省かれてて。
うん。
乗ってる具材全部が新鮮だって分かるし、心を躍らせながらわさびを醤油で溶いてたんだよ。
それで、話しながら何気なく海鮮丼にわさび醤油をかけると……。
ビクビクビクッ!!
……って、エビが動いたんだよね。
やめなさいよ。
こっちまでびっくりしたじゃない。
うん、僕も今のホノちゃんくらいびっくりしたよ。
これってもしかして、死んだ後に下処理されたエビじゃなくて、生きたまま下処理されて、そのまま出てきたエビ……?
と思って震えたよ。
まさか自分の食卓の上に生き物(生きてる)が乗るとは思わなかったからね。
活きがいいってことだし、うまそうじゃないか。
いや、あまりにも痛そうな動きだから僕も彼女もなんか怖くなっちゃって……。
「……エビが怖いから別の所から食べよう」って、しょぼんってしながらウニとかを食べてたよ。
でも、所詮エビでしょ?
頭を取ったり殻を剥いたりしたことくらいあるでしょ?
死んでるやつならあるよ。
でも、生きてるやつっていざ目の当たりにすると結構ひるむんだよ。
生きたまま食べるってのがちょっと抵抗あるし。
じゃあ、角田達はそのエビが息絶えるのを待ってたのか?
まぁ、そうなるね。
さっきも言った通り、エビ以外のところを食べてる間にエビの動きが止まったから、木のスプーンで一気に頭を落としたよ。
ちなみに、頭を落とした後も脚が動いててあまりに怖かったから、彼女と僕は「怖エビ」って呼んでた。
へぇ、エビって生命力が強いのね。
ね。
多分今まで食べたエビの中でも最高の鮮度だったから、すごい弾力と甘みだったよ。
口の中で動かなくて本当に安心した。
僕、結構エビは好きなんだけどさ。
生きてるだけでこんなに抵抗感が出るとは思わなかったよ。
聞いてるだけだと美味そうに聞こえるんだけどな。
ね。
私も食べたいくらいよ。
いやぁ……ホノちゃんはまだ覚悟ができてないと思うなぁ……。
以上。