悲しみのオレンジと喜びの黒

とある場所で、人々は笑顔を浮かべて踊っていた。

冬の夜のことである。

木々は凍り付き、湖に水気が感じられないほど凍える夜。

彼らは炎を囲って踊っていた。

今まで見たことのないほど大きく、激しく燃える炎の前である者は歌を歌い、またある者は酒を飲み、誰一人として沈んだ気分を見せるものはいなかった。

 

炎は偉大だ。

運動、振動の極致であり、常に熱を発し続ける。

人類の進化に不可欠な存在であると同時に時として我々に破滅をもたらす。

まるで気分屋の神のように人々に寄り添ってきた。

人は炎をコントロールしている気になっているだけで、本当は炎に操られていることを知らなかった。

いつでも炎はほくそ笑み、自分に与えられた物を咀嚼しながら人々に希望の色、オレンジを見せていた。

 

しかし、今回に限っては炎も困惑していた。

自分を前に笑顔を浮かべる人は少なくない。むしろ多いくらいだ。

だが、なぜ人々が自分を見ながら楽しそうに騒いでいるのか皆目見当がつかない。

寒い日に暖を与えてくれるから?

不安を煽る闇を消し去ってくれるから?

違う。そんな感覚的な喜びでは到底説明がつかない。

 

罪人、山、森、人家を喰ってきた炎は、人の利己的な性質には深い理解を持っていた。

それは結果として、人間の自虐的な面に結びついていることも知っていた。

なんて馬鹿な生き物なのだろうと見下していた。

 

それでも、炎は彼らの故郷、街を喰いながら、自分を見て大喜びしている人々の歓声を不気味に思った。