祀り

ある蒸し暑い夏の日、女は田舎にある実家にいた。

盆であるから帰っているだけで、それ以外の理由はなかった。

 

その日、女は親戚たちと大広間で食事をし、かつて自分が使っていた部屋で寝ることにした。

 

食事が終わり、部屋に入ったところで女は奇妙な音が聞こえることに気が付いた。

それは篠笛等、横笛の音であった。

次第に太鼓の音が聞こえ始め、祭囃子のような陽気なリズムへと変わっていった。

 

ただ、その音がどこから聞こえてくるのかは分からない。

田舎と言えどもここは住宅街で、祭りを行うような場所は知覚にはない。

そして、遠くの祭りにしては音が大きすぎる。

まるで家の前、いや、部屋の扉の向こうで祭りが行われているような、耳を塞ぎたくなる程の音量まで大きくなっていた。

 

女は恐怖を感じなかった。

部屋の扉に手をかけ、何でもないように開ける。

 

その瞬間、うるさく鳴り響いていた祭囃子はピタリと止んだ。

目の前に広がる、見覚えのない広場がただの気のせいで片付けようとしていた女の思考を止めた。

広場には屋台が点々とあり、オレンジ色光を発し続ける提灯がずらりと設置されていた。

しかし、人は一人も見当たらない。

地面に焼きそばのトレーが中身の入ったまま落ちているのを見るに、人がいたことは確かなようだが。

 

女は広場に一歩踏み出した。

振り返ると、扉は宙に浮いているように存在している。

女はこの異常な光景になぜか安心し、一つの屋台に向かっていった。

 

ガラス細工のようなりんご飴。

女はそれを一本手に取り、扉へと戻っていった。

扉のノブに手をかけ、ひねる直前に女はそのりんご飴を少し舐めた。

 

扉は一瞬で消え去り、二度と姿を現すことはなかった。