終わらない地獄

今日、初めて社外的なミスをした。

 

昨日客先に「できれば明日まで」と言われた書類を提出することができなかった。

 

連日我が社の受注ミスで迷惑をかけていた矢先にこれだった。

 

その書類は簡単なものだ。

他会社に依頼をかけて送ってもらい、それをそのまま横流しするだけのもの。

そもそも僕らが作成しているわけでもないため、僕がすることと言えば「依頼をかけること」以外にはない。

 

僕は依頼をかけるのを忘れていた。

気づいて依頼をかけた時には既に「明日になる」という回答を貰っていた。

新たな仕事の殺到で混乱していたというのは言い訳だ。

朝、上司に釘を刺されていただけあって言い訳なんかゴミにもならない。

 

別段怒られたわけではない。

なぜなら客先が怒りをあらわにするとすれば明日のことであり、今日は「提出ができなかった」という事実が生まれただけだからだ。

上司に怒られるとしたら客先の後だろう。

 

もしかしたら怒られず、なんだかんだ客先も拳をおろすかもしれない。

しかし、今の僕は人の怒りを恐れているわけではないため、むしろ拳を振るってくれた方が気が楽だ。

 

今の僕が最も恐れていること、それは既に起こってしまっていた。

既に起こったことを恐れているのはおかしいかもしれない。

 

 

 

また「忘れて」しまった。

 

 

 

 

僕は忘れっぽい。

幾度となく指摘を受け、その度に「気を付けよう」と思っていた。

 

気にしないわけない。

落ち込んでないわけがない。

 

それでも、その度に湧き上がった感情を忘れ、その出来事自体を忘れ続けた。

 

 

 

いつか。

いつだったか、社内的なミスをした。

これが起こる前の一番のミス。

 

それも「忘れた」ことで起こったのだが、今はその感情も覚えていない。

日記をつけているため、その日の頁をめくればすぐにその出来事は参照できる。

 

「入力ミスをした」

 

なんて馬鹿げたことで落ち込んでいるのか。

小さな入力ミスはこれから何十回とするというのに。

 

と、こんな風に、どれだけ過去で悲しんでいても今の僕はその出来事で悲しむことはできない。

むしろ見下した感想を吐き出す。

 

僕はそれが悔しい。

「こんなことで」と思う今の僕にも、今回の一件を思い出した未来の僕にあざ笑われることにも、漠然として憤りを感じずにはいられない。

 

僕は覚えていたい。

仕事も感情も出来事も。全て覚えていたい。

 

 

 

カテゴリの「地獄巡り」シリーズはそんな過去の僕に睨まれながら書いていたが、今回は僕が睨む番だ。

 

覚悟してろ。

 

いつかお前が地獄の一部となったとき、僕は精一杯同情してやる。

地獄がどういうところなのか分からせてやる。

 

 

そして、二度とこの地獄に来られないよう背中を押してやる。

 

この地獄は僕の物だ。

 

お前はお前の地獄を作れ。

 

そんなわけで、僕はこの地獄に残ります。

 

 

以上。