地獄の四丁目:先輩の東京土産

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恐らくこれは吹奏楽部にいた人なら分かってくれると思うのですが、修学旅行に行った際、部全体のお土産とは別でパートの後輩にお土産買いますよね?

 

分からない人のために少し説明します。

吹奏楽部に入るとそれぞれ楽器が振り分けられます。トランペット、トロンボーンユーフォニウム、チューバ、クラリネット、フルート、パーカッション……と、まだありますが、この中のどれかの役割をもらうんです。

そして、それぞれの楽器には先輩がいます。例えば自分が中学一年生でトランペットになった場合はトランペットの2年生、3年生の先輩がいるわけです。

 

この「同じ楽器である」ということは、かなり強い団結力を生みます。全体練習でももちろん近い位置にいて、いろいろアドバイスをもらえたり、パート練習(各楽器ごとに一つずつ教室をかりて行う練習)などによって一緒に過ごす時間が多いわけですから、自然と仲良くなって特別感が生まれるのです。

 

「直属の後輩ができる」という表現のほうが想像しやすいでしょうか。「吹奏楽部の後輩」ではなく「私の後輩」であり、自分の指導によってどんどん実力があがっていくのは非常に嬉しいものです。

 

と、そういうわけで僕たちの吹奏楽部では「部活全体のお土産」とは別で「パートの後輩に渡すお土産」を用意するのが普通でした。

 

 

 

 

それを念頭に置いて僕の話をします。

 

僕は当時中学一年生。鍵盤楽器以外の楽器に魅力を感じて入部し、その世代のたった一人のフルートとして頑張っていました。

そして、そのときにフルートの先輩は3年生が2人、二年生が2人の計4人いました。

全員女の子で最初かなり緊張した覚えがありますが、皆さんとても優しくて、特に3年生の先輩にめちゃくちゃ可愛がってもらったので、毎日楽しく部活に参加していました。

 

部活に入るのが4月~5月だとして、次の6月には大きなイベントがありました。

そう3年生の修学旅行です。

まぁ、1年生の僕からしたらそんなに大きな出来事ではないんですが、3年生の先輩としてはビッグイベントですよね。その先輩2人も前々からかなり楽しみにしていました。

 

学生時代の修学旅行では持っていける金額に上限があります。僕の学校の上限金額は忘れてしまいましたが、僕の先輩たちはキチンとその規則を守って東京に出発しました。

 

二泊三日? 三泊四日? というのは正直覚えていませんが、ここはどうでもいいので置いておきます。その3年生の先輩がいない日々を数日過ごし、土日を挟んで(このときは土曜練習がなかった)次の月曜日の朝練。三年生の先輩が部活に現れます。

 

感覚的には一週間ぶりくらいでしょうか。久しぶりにあった先輩は修学旅行を楽しんだようで、全体練習を終えた後に少し話を聞かせてくれました。

ただ、朝練後は基本的にあまり時間がないので、その話もそこそこに楽器を片付けて教室に向かおうとしていました。

 

そのとき、思い出したように三年生の先輩はお土産のことを口にしました。

「あ、角田君お土産買ってきたよ!」

 

そう言い、先輩が鞄からとり出したのは……

 

ハイチュウでした。

 

あのハイチュウです。何かの隠喩でもありません。正真正銘ハイチュウです。

12個入りのあのちょっと長いやつね。

「え?」と思うでしょう?

まぁ、1~2か月しか経ってないとはいえ、すでにめちゃくちゃ可愛がってもらっていたので特に文句もなくそれを受け取りました。

 

 

東京限定の味だと思うでしょう?

残念! いちご味です!

なんならコンビニに行けばすぐに見つかります。

 

 

まぁ、ただ一つ他のハイチュウと違ったこともあります。

ハイチュウ本体を裏返したとき、成分表が載ってるあの白い面を見た時、

 

黒いマジックで「トーキョー」とでかでかと書かれていました。

 

 

僕のその何とも言えない反応を見たその先輩は僕に「ごめんね……角田君……」と申し訳なさそうにしていたので僕も必死で嬉しいアピールでフォローしますが、何度も言う通りいちご味のハイチュウです。決死のフォローも、ただ普通のハイチュウを褒めているだけになってしまいました。

 

ただ、なぜ「ごめん」と言いながらハイチュウを持ってきたのかという説明だけは聞くことができました。

簡単に言ってしまえば「予想以上に散財してしまってお土産を買うお金がなくなってしまった」ということです。まぁ、学生にはありがちですよね。テンションが上がる修学旅行、普段行かない土地を訪れて散財するのも分かります。

 

この先輩はまだこれでは終わりません。

このままでは僕にお土産を買えないと思った先輩は他の同級生にお金を借ります。

この日は修学旅行最終日。他の人も金銭面に余裕があるわけもなく、その先輩が借りることができたのは500円が精いっぱいでした。

「あれ? キーホルダーくらいは買えるじゃん」と思いますよね。

 

しかし、最終日に行った横浜の中華街でその500円を失うことになります。

行ったことある人ならもうわかりますよね。

この先輩は栗の押し売りに負けたのです。

 

試食だからと食べていたらぐいぐい来る店主。「500円しかないから」と栗の押し売りを断るも「500円でいいから!」と言われ、それでも断ると1000円の栗の袋の中にどんどん栗が追加されていき「もってけドロボー」感を出されて行きます。断れば断るほど栗の量は増え、「安く買いたいから渋っている」ような気分になっていたらしいです。

 

まぁ、立ち去ればいいのですが「試食している」というよくわからない罪悪感にかられて根負けしたらしいです。

女子中学生にあのたたき売りを断るのは厳しいものがあるのかもしれません。

……僕の先輩だけかもしれませんが。

 

まぁ、そういうわけで先輩は近所のコンビニでハイチュウを買い、マジックで「トーキョー」と書いたのでした。

なにがそういうわけなんだよ。

 

 

あ、ちなみにもう一人の先輩は普通にお土産をくれました。

 

 

 

 

 

まぁ、僕としては「それでも何かあげよう」という気持ちが嬉しかったので本当に文句や恨みのようなものはありませんでした。

 

正直その面白い話で僕はかなり満足しました。

 

以上です。